待ちに待った「シン・センパイ」の劇場公開が今日から始まりました。「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」、「シン・仮面ライダー」に続く最新作かと思っている方は全くの別物ですのでご注意ください。本作の監督は構成や演技指導などまったくやらずに、キャストやスタッフに全部丸投げすることで有名なOREさんが初監督を務める作品です。この日の舞台挨拶でもご自身の「丸投げの美学」について熱く語り、キャストや私をドン引きさせていました。ほとんどの人が本作に興味がないかとは思いますが、先輩シリーズがコアなファンにはたまらない作品となっています。実際に観た感想を交えながらストーリー(ネタバレ)を解説していきたいと思います。
映画の序盤は主人公のオレが働く株式会社ビービーの情報システム部門のフロアとなります。スキルの低い社員たちが日々の簡単な問合せ対応で奇天烈な対応をしたり、システム対応ではイミフな言い訳をしながらの対応で周りを困惑させたりと、オレの周りを取り巻く個性豊かな登場人物たちのあり得ない行動で観客の笑いを誘います。新入社員と派遣社員以外はほとんど情報システムの知識はなく、特に正社員なのに極低スキルを持った老兵と先輩が、天性の知ったかぶりと上から目線の発言を繰り返すシーンではこれでもかってくらいに爆笑を誘ってきます。
先輩「サーバーに繋がらない!?IPv6のパケットが流れてるやんけ!!」
オレ「(フィルターかけましょうね。)」
先輩「AWSのリソース解放したのに課金されてる!!」
オレ「(別リージョンにサーバー構築してましたよ。)」
先輩「Ubuntuって仮想マシーンだよね?」
オレ「(うるせー!黙ってろ!!)」
イミフな発言で周りを迷宮に引きずり込もうとする先輩。するとスマホが突然鳴り出して席から離れ、隠れるようにして通話する新人。電話相手に「至急向かいます」と言って電話を切り、新人がオレと目を合わせて真剣な表情を見せたところからシリアスな雰囲気に変わっていきます。
オレと新人が向かったところは軽視庁。ここで二人の正体が軽視庁警備局爆破会社員対策課の軽察官だということが判明します。ストレスの軽視を目的とした創立間もない軽視庁の中でも、会社員がストレス性の加害を与えるという凶悪事件を担当するのがこの二人。デスクに向かった二人がメールを確認するとCIAから届いた謎の調査協力から不穏な空気が流れてきます。
新人「CIAの知人からメールが来てます。ちょっと確認しますね。」
オレ「あぁ。」
新人「・・・オ、オレさん!こ、これ・・・。」
オレ「・・・日本が標的?おい、レベル4って・・・(絶句)。」
新人「すぐに内閣府に連絡します!」
爆破会社員レベル4。会社を転覆することもできてしまう程の超低スキルを所有し、バカ対史にも類の無い危険が迫っていることに困惑する二人。重たい空気が二人を包む中、ハッとしてディスプレイに飛びつくオレ。オレの見ている先には添付された画像ファイルが1つあり、新人がそのファイルをクリックすると「Sen Pi」と書かれた1枚のメモ紙が表示されます。
オレ「セン、ピ?」
新人「・・・どこかの言葉でしょうか?」
オレ「・・・わからない。」
新人「CIAからはこれを調べて欲しいときています。」
オレ「分かった。センピの調査も行いながら、まずはあらゆる事態に備えよう。」
新人「はい。」
翌日、会社のフロアで仕事を装いながら、ブラック企業の社員リストに目を配る新人。そして、世界中のおバカ動画を漁って、違う角度からの捜査を行っているオレ。二人の表情からは一刻の猶予もないといった空気が漂っているため、他の社員は眉をひそめて二人を見ています。そんな状況でも、いつも通りシステムとは関係のない話で事務のおばちゃんと派遣がくだらないおしゃべりを始めます。
事務「子供がパソコン欲しいって言ってきて―。」
派遣「パソコンに興味があるんですか?」
事務「そうじゃないの。ゲームがしたいだけなのよ。」
派遣「へぇ。いいじゃないですか?」
事務「なんとかペックス?最近流行ってるじゃない?」
派遣「あ~、エーペックスですね。僕もやりますよ。」
フロアの異変に気付かず、空気を読まない二人の声が響くフロア。気が散ったのか、おバカ動画のチェックを止めてポケットからプリントアウトした「Sen Pi」の写真を取り出し、椅子にもたれかかってオレが写真を眺めます。すると、横から派遣が写真を覗き込んできて、オレと新人が予想もしていなかった言葉を派遣が口にしました。
派遣「懐かしい~。センパイですか?」
オレ「は?先輩?」
派遣「知らないですか?ラズパイとかが流行るよりももっと前に出ていたシングルボードコンピューターなんですけど―。」
オレ「おい!これをもう一回読んでくれ!」
派遣「え?センパイ?」
急いで紙に書き出すオレ。新人もオレの席に駆け寄ってラズパイとセンピの文字を見比べると、「Raspberry Pi」と「Sen Pi」の文字が類似していることに驚きます。
派遣「でもすぐに製造中止になっちゃったんですよ。理由は分からないんですが―。」
新人がサイバー班にセンパイの情報を収集するように依頼すると、過去の地方記事から「Sen Pi」の記事が見つかります。素人ながらにシングルボードコンピューターを作り上げ、センパイを世に出そうと起業した社長が写っていました。センパイの真相に一歩ずつ近づいていく二人。社長が隠居して暮らす住所を特定し、辿り着いたのは長閑な田舎の一軒家でした。畑仕事をしているおじさんに話しかけると、センパイを発明した社長だということが分かります。
オレ「センパイについて少し伺いたいのですが?」
社長「はははっ。昔の話だよ。素人がつくったものだから本当に酷かった。」
新人「どのように酷かったのですか?」
社長「処理性能も低くてね。計算結果も合わないんだよ。すごいだろ?はははっ。」
豪快に自分の失敗談を笑うバカ社長を前に、微塵も隙を見せないバカ対の二人。そんな二人を気にも留めずバカ社長は話を続けます。
社長「それでも自分のつくったものは世の役に立つと思っていたんだ。だから世の中に出したいと思った。しかし、すぐに製造中止にした。そりゃあ、そうだよな。計算結果の合わないコンピューターなんてコンピューターじゃないだろ?はははははっ。」
バカ社長にお辞儀をして車に乗り込んだ二人は、操作が空振りで終わったことに疲れた表情を浮かべていました。
新人「時間の無駄でしたね?」
オレ「あぁ・・・。」
新人「・・・どうしました?」
オレ「いや、なんでもない。・・・コンピューターでもない・・・か。」
新人「はははっ。センパイを配ったのが地方イベントの子供たちだけで良かったですね。コンピューターと言っておいて、コンピューターでもないものが世に出たらヤバいですよね?」
オレ「おい。今何て言った?」
新人「地方イベントの子供―。」
オレ「違う!そのあとだ!!」
新人「コンピューターでもないものが世に出たら―。」
オレ「会社へ急げ!社員全員がヤバい!!」
会社の前に車を停め、血相を変えて車を飛び出すオレ。新人は意味が分からないまま付いていきます。
新人「オレさん!どうしたんですか!?」
オレ「そうだ。あのメモが示していたのは先輩だったんだ。」
新人「センパイはもう作られていないじゃないですか。」
オレ「そっちのバカじゃない!こっちのバカだ!!!」
オレの中で「Sen Pi」のキーワードがすべて結ばれていきます。「スキルも低くて知識のアップデートもされない」、「知ったかぶりの間違った情報を周りにばらまく」、「もはやエンジニアではない」、オレから「Sen Pi」の真の意味を告げられて青ざめる新人。全社員を恐怖に陥れるだけでなく、システムエンジニアだったら命の保障はないレベル4の会社員。フロアに戻る二人の緊迫した表情が、観客すべてをクライマックスへと引き込んでいきます。
新人「ダメです。既に他の社員が捕まっています。」
オレ「くそっ!ガラケー使ってるやつがスマホの使い方を説明してやがる!」
新人「あそこまで、ま、間違った回答を、自信・・・満々に?」
オレ「バカ野郎!耳を塞げ!〇ぬぞ!!」
新人「き、聞くに、堪えられな・・・。」
倒れ込んでいた新人がゆっくりと目を開けます。ぼやけてる視界の先には必死に新人の名前を呼んでいるオレが映っています。新人の意識が少しずつ回復してきたあと、オレが起こったことの一部始終を話し始めました。たったの数秒口を開いただけで新人の意識を失わせたこと。その後も、バカみたいな質問や回答をしているのに、神々しさを感じる威風堂々とした振る舞いだったこと。その話を聞いて、とてつもない敵と戦っていることに気付いて項垂れた新人だったが、最後の力を振り絞るかのようにオレに尋ねました。
新人「み、みんなは?社員のみんなは?」
オレ「・・・見てみろ。」
微動だにしない老兵やスマホをいじっている事務員のおばちゃん。アホな面してディスプレイを眺めている上司。普段と変わらない会社風景に、状況を呑み込めていない新人にオレがゆっくりと話します。
オレ「終わったんだ。いや、終わってたんだ。」
新人「どういうことですか?」
オレ「うちの会社は・・・、ITのスキルもなければ、人が何をやっているのかも興味がない。そして何よりこの会社にはエンジニアはいなかったんだ。・・・救われたんだよ。」
ここでエンドロールが流れ、私の頬を大粒の涙がつたっていました。エンドロールで流れてくるそうそうたる登場人物に心から拍手し、最後に「シン・センパイ 続」と表示されてからも、席を立ちあがらずに少し余韻を味わっていました。
時間も気になり席を立とうとすると、スクリーンに株式会社ビービーのフロアが映し出されました。私は何が始まったのか分からずにスクリーンに目をやります。そこには夜の薄暗いオフィスに一カ所だけ照らされた席に座っているオレがいました。オレはデスクで何かを書いた紙を折りたたみ、細長い封筒に入れると席を立ち上がります。歩き始めたオレが向かったのは上司のデスクでした。社員証を外してデスクに置くと、先ほどの封筒も置いてフロアを出たところで「シン・センパイ 完」の文字が表示されました。
私には最後がどういう意味かは分かりませんでした。2種類のエンドが用意されていたということでしょうか?総評としては傑作にも問題作にもなりそうな作品に、私自身とても考えさせられる作品となっていたと思います。もしみなさんも気になるようでしたら、是非劇場に足を運んでみてください!
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