【ネタ】指導熱心でITリテラシーの高い理想の先輩

 オレには指導熱心でITリテラシーの高い理想の先輩がいる。誰かが話しているとやたらと会話に入っていき、「情報セキュリティの観点から~」とか「その作業に意味は~」など、システムエンジニアとしての在り方をいつも説いてくれる。今日も派遣社員の方がパソコンの貸し出し対応が終わって席に着くと、待ち構えていた先輩がこう切り出した。

先輩「今貸し出したパソコンって管理されていないパソコンですよね?」
派遣「はい。」
オレ「(先輩の熱血指導キタァァァァァ)」
先輩「情報セキュリティについての誓約書にサインしましたよね?」
派遣「は、はい。」
先輩「管理されていないパソコンを貸し出したらダメじゃないですか?」
派遣「でも、セキュリティソフトが入ってて写真の取り込みができないとのことだったので・・・。」
オレ「(ダメよ~ダメダメ。そんなの常識でしょ。でも管理されていないパソコンがなぜあるの?)」
先輩「誓約書にサインしたのに自らそれを破ってどうするんですか?」
派遣「はい・・・。すみません。あの、回収してきた方がいいですか?」
先輩「いや、もう貸し出しちゃったならいいですよ。向こうにも業務があるだろうし。」
オレ「(やっさしい!特例ってことっすね!)」

 こんなやり取りが10分近く続けられ、その熱意ある指導にオレは感謝の気持ちを持って耳を傾けていた。オレだったら「管理外のパソコンを無くせばいいんじゃね?てかそれが社員の役目じゃね?」と安直な考えをしてしまうが、先輩は情報セキュリティの重要性を指導するために、キッティングの作業を止めてまで派遣社員の教育に時間を割いていた。

 数日後、朝来たら開発部からメールが届いていた。内容は製造部で使用しているパソコンと同じものを用意して欲しいとのことだった。先日、派遣さんが貸し出した管理外のパソコンのことを指しているようだ。このメールを先輩が読んでしまったら、またあの熱血指導が始まってしまうと興奮して待っていたのだが、この日に先輩からの返信はなかった。

 翌日聞いた話だと、上司の間で管理外のパソコンも仕方ないということで話がまとまったようだ。先輩の気持ちを考えると胸が締め付けられたが、きっと他部署には寛容な思いでメールを読んでいたのだろう。情報セキュリティより大切なことってありますよね。

 管理外のパソコンの話も落ち着き、先輩は故障したパソコンのHDDを交換し、丸投げしているベンダーからの電話対応が終わるとキッティングしたパソコンの設置に向かった。仕事ができないオレはというと、ベンダーなんて付けてもらえない。ユーザーの業務を手伝ってユーザーの代わりに問題点を洗い出し、その問題点を自分に渡して要件定義を書き、その要件定義を自分に渡して仕様書を書いてプログラムを組んでいる。キッティングやベンダー丸投げに憧れているオレにとっては、それを余裕でこなす先輩が理想のシステムエンジニアなのだ。

 今日も気付いたら終業時刻に近づいていた。そろそろ帰る準備をしようとアプリを閉じ始めていると、ファイルサーバーにアクセスできないという声が聞こえてきた。すると先輩が率先して調査を始めたので、オレは勉強させてもらおうと横目で先輩の画面を覗いていた。どうやらWireSharkでパケットを確認しているようだ。「パケットを見るなんてすごいなぁ。」と尊敬の眼差しで見ていたが、「う~ん。これかな?いや、これか?」と先輩が難しい表情で考え込んでいる。時間だけが無駄に過ぎていき残業が頭をよぎったその時、向かいの島から「サーバー繋がった!」という声が上がった。LANケーブルの抜き差しで回復したとのことだった。

 ある日のこと、事務員のパソコンで不思議な現象が起きていた。派遣さんが対応していると、パソコンの設置から戻ってきた先輩が速攻で二人の会話に入っていった。

先輩「見せてもらえますか?」
事務「これです。コピペすると改行が2つ入力されちゃうんです。」
先輩「あぁ、それならバイナリエディタで確認すれば分かりますよ。」
オレ「(!?先輩!バイナリコードも読めるんすか!?)」
先輩「おそらく改行が2つ入ってるんですよ。CRLFが入っているんじゃないかな。」
オレ「(!!!!!)」

 またしても自分のスキルの低さを痛感した瞬間だった。Windowsで「CRLF」は改行が2つになってしまうようだ。今回の問題も解決することはできなかったようだが、パケットを見たりバイナリコードも余裕で読み解いてしまう先輩には尊敬の念しかない。この日オレは、先輩にメールを送る時はバイナリコードにしてから送ろうと固く誓った。

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