【ネタ】荒廃したファイルサーバーを目の当たりにして

 空気の読めない新人について書いたあと、まるでフォースインパクトが起きたかのように抜け殻となってしまったオレは、意味のない積み上げられた仕事も手につかず、呆然とデスクに座って次の記事を考えていた。この戦闘狂の新人が来てからの1カ月間、心休まる間もなく激しい戦闘に駆り出されていたオレは、ひとり出撃することもなくロビーでこれまでの戦闘シーンを回想していた。

新人「このシステムの警告どうして消さないんですか?」

 ワーニングを吐き出しまくっているシステムを見た新人が聞いてきた。当たり前のことを当たり前と思わなくなっていたオレは、突然きたこの質問を理解するのに少しの時間を要したが、この新人を納得させるのは無理だと観念したオレは、「消し方を分からないのかもしれない。もしかしたら消していいかの判断もできないのかも。。。」すると新人は難しい表情を浮かべていたが、「うんうん」と納得したように無言で頷き、少しの間を置いてから次の質問がきた。

新人「あのシステムのマニュアルはどこにありますか?」

 インターネット接続できない隔離されたシステムにあるオンラインマニュアルが見たいとのことだった。そもそもオフラインで使用するのであれば導入時にマニュアルを取り寄せるのが当たり前だが、きっとうちの会社はそんなことはしていないだろう。この質問も同じように「マニュアルを読みたいと考える人もいないからおそらくないと思う。代理店に問い合わせてマニュアルを取り寄せてみてはどうかな?」と正直に答えると、これも一応納得したように頷いて戻っていった。

オレ「(正直に話した方がいいのか?)」

 この会社は、素直に思ったことを口にするやつから息絶えていく。トヨタ方式のなぜなぜ分析を搭載したやつにとっては単なる拷問でしかない場所だ。自分も遠い過去に「疑問」や「思考」というものを危険物と一緒にゴミに出し、今日まで意味のない無駄な仕事を無心でこなしてきた。だから今では、「ワーニングは1つずつ確認して判断して。」とか、「マニュアルなんて必要?この機能しか使ってないんだから大丈夫だよ。」とか平気で言えるようになっていたが、新人と過ごすことで過去の自分を取り戻すような懐かしい感覚に浸っていた。

新人「ファイルサーバーの運用ルールってありますか?」

 そんなある日、新人からファイルサーバーについて聞かれた。ファイルサーバーを開けば一目瞭然なのだが、運用ルールなんてそんなものなんて存在しない。少なくともオレは教わっていないし、教わる気もなかった。ファイルサーバーが汚くなっていくことは仕方のないことだが、うちの会社のファイルサーバーはそんな常識を遥かに凌ぐ散らかりようだった。例えば、部署フォルダを開いたらいきなり名前フォルダが現れ、さらには知らない名前の(辞めた)やつらまで出てきたり、正体不明のショートカットが陣形を組んで待ち構えていたりと、自分が探しているファイルはおろか、そのフォルダすらも分からない構成となっている。さらには、「〇〇さんへ」というフォルダ名の奇行種に出くわした時には、こいつが何なのかを考えるよりも先に立体起動装置を全開にして一心不乱にエクスプローラを閉じた。このように、壁外への門ならぬ、壁内への門を開けたら最後、慣れ親しんだ街だと思って入ったファイルサーバーは、巨人たちに破壊された後のように、見るも無残な光景をエクスプローラーが映し出していた。

新人「どうやったらキレイになるかな・・・。」
オレ「!!!」

 ひとり言のようにつぶやく新人。「こいつは始祖の巨人の地ならしを止めようとでも思っているのか!?」と思ったが、おそらく新人を説得しようとしても無駄だろう。教育係として新人と過ごしてきたオレには分かる。こいつはエレンのように「駆逐してやる!!この世からクソファイルを1つ残らず!!」とか言って、ひとり突っ走ってしまう生き急ぎのクソ野郎だ。慌てて新人をなだめようとした時、ふと自分の中での心境の変化に気付いた。今まで壁の中での生活が当たり前だと思っていたオレは、この新人と過ごしてきたことで、どこか壁の外の世界に憧れを抱いている自分がいたのだ。急に沸いてきた感情に戸惑いながらも、それを隠すようにして自分の作業に戻った。

 そんなある日、駐屯兵団のオレは製造部のフォルダから資料を探していた。「■」や「★」、「●」などのバラエティ豊かな記号が並び、全角や半角が入り交ざったファイルたちが行き交っている。ウォールマリアに住んでいたオレにとっては、他の街の景色もまた新鮮に映っていたが、オレが住んでいる街と同様、ファイルを開いてはパスワードを聞かれ、次のファイルを開いてはリンク先を聞かれ、見知らぬ街でも同じような質問に合うことに疲れたオレは早々に帰国を決意した。

 疲れて戻ってきたオレのところに新人がやってきた。「今は無理ですね。できるところからやりますね。」と言うと、新人は席に戻りキーボードをカタカタと打ち始めた。そんな新人を見ながらミカサやアルミンの気持ちを自分に重ねていた。

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