今日はあるサービス導入のキックオフミーティングが予定されていた。オレ的にはうちの会社では絶対に導入しない方がいいと思っていたサービスだ。うちみたいに管理ができない管理職だらけの会社で、村社会のように風通しの悪い職場では絶対に導入してはいけないと思っている。こんなものを導入してしまったら、経営陣や管理職はこの先どんな顔をして働いていくのだろうか。それこそすべてのカテゴリーで0点をたたき出してしまったら企業の存続自体が危ぶまれてしまうのではないか。そんなオレの心配を余所に導入が決まったサービスとは・・・、そう。「従業員サーベイ」だ。
従業員サーベイの導入はちらほらと耳に入ってきたが、「うちの会社はそこまでバカじゃない。」「従業員の会社に対する評価くらい分かってるはず。」と思っていたため聞き流していた。ユニクロの「悪口言って100万円」のような戦略があるならまだしも、戦略の意味すらも分からないうちが従業員サーベイという悪口言い放題を実施するなんて自殺行為でしかない。そんなバカなことができるのはバカボンのパパくらいだろうと思っていたある日、従業員サーベイ導入のキックオフミーティング招待通知が送られてきた。西から陽が昇ってきたかのような衝撃を受けたが、なんとか平常心を保ち確認すると、オレの上司が勝手にアサインしたとのことだった。上司の方を見るとバカみたいな顔してモニタと睨めっこしている。よく見るとバカボンのパパに見えてきた上司を見て、従業員サーベイの導入もなんとなく納得ができた。会議資料を見ようとモニタに向かうと、向かいからぶつぶつと独り言を呟いている声が聞こえてきた。
先輩「今日の会議は何が目的なんだろう?準備できてるのかな~。」
オレ「(今日の会議!?・・・まさか!!)」
慌てて先輩の予定を確認すると、今日の会議に先輩も出席することになっていた。ただでさえやる気がなかったオレのやる気はNULLとなり、オレの思考プログラムは「[WARNING!!!!!!!!!!!]会議にマルウェアが招待されました。ただちにネットワークから切断してください。」と警告を吐き出した。しかし、現実世界ではマルウェア野郎とのネットワークを切断することなんてできない。できるだけ聞こえないフリをしているが、マルウェア野郎のDoS攻撃は続く。
先輩「ユーザー部門の主担当って決まってるのかな?」
「お前が知る必要ねえだろ」とオレはログを出力をした。既にマルウェア野郎の対策は万全だ。こいつの独り言や横やりに回答すると瞬く間に不要な情報が流し込まれる。無駄な会話や面倒臭い話を聞くことになってかなりのリソースが割かれるため、予め音声メッセージを出力せずに、無音のログを出力するように自分自身を設定していた。これらのログ出力はオレの中でスケジューリングされていて、先輩の独り言や横やりの発言をトリガーに、「は?馬鹿なの?」や「何言ってるの?こいつ」、「お前には関係ねえよ」といったログが出力されるようにいくつも登録してある。ここまでしても先輩からのDoS攻撃にはかなりのリソースを割かれるが、それでもないよりかはマシであった。
先輩の独り言は誰にも拾われずに終わったが、数分すると今度は明らかにオレを標的にして話しかけてきた。会議資料に目を通していたが、これ以上はオレのファイヤーウォールも耐えられずに応戦した。
先輩「AWSのユーザーを追加したいんだけどどうしよう?」
オレ「えっと、それって保守会社に依頼するだけですよね?」
先輩「・・・。」
オレ「(こいついきなり黙り込むんだよなぁ。答えてるんだから返事くらいしろよ。)何か困ってるんですか?」
先輩「・・・権限とか良く分からなくて、保守会社にどう指示をしようか―。」
要はそのAWSでの作業を細かく指示したかったのだが言葉も意味も分からなかったのだ。既存システムに対しては保守会社に丸投げしていたため、なぜ急に細かな指示を出そうとしているのか一瞬考えたがすぐにわかった。実は数日前から会社でそのAWSの研修が開かれ、既に手遅れではあるがAWSの知識が必須と気付いた先輩も研修に参加していたのだ。研修に行って持ち前の知ったかぶりを披露したくなり、急に「あの機能のあれを設定するのかな」とかぶつぶつ言い始めた。
オレ「(マジでウザいんですけど~。てか、2、3日の研修で分かる訳ねえだろ。)」
オレは既にそのAWSでの開発経験も運用経験もある。それを知ってか「オレももう知ってるぜ~」的に話してくる先輩。やりとりは続く。
オレ「先輩も忙しいから保守会社に任せてもいいんじゃないですか?」
先輩「・・・・・うん。そうだな。そうしよう。」
オレ「(どうせ分かんないんだから最初からそうしとけよ。)」
こいつは一体何がしたいのだろう。いつもどうでもいいことで話しかけてくる。この前も相見積もりを取ったが決定的な材料がなく難しい顔をして悩んでいた。
先輩「この見積りどう思う?」
オレ「A社は既存と変わらなくて、B社は安いけど保守性が低いんですね。」
先輩「そうなんだよな~。C社にしたいんだけどC社は初期費用が高いんだよな~。」
オレ「でも先輩が決めるわけじゃないから先輩が悩む必要は・・・。」
先輩「・・・・・。」
オレ「!!でも難しいところですよね~。」
無駄だ。マジでこいつと話す時間が無駄過ぎる。2時間かけてショッピングモールに出かけたのに定休日だったくらい無駄過ぎる。何ならその帰り道で事故ってしまったような損した気分になる。そしてそんな気持ちをブログに書いちゃうやつくらい無駄な存在だ。
先輩「おっ、そろそろ会議の時間か。」
結局会議の資料に目を通せずに会議室へ向かった。そこには関係部署の社員が総出で出席していて、「これは億単位のプロジェクトか?」と思うほどの人数がいた。「数十万のサービス導入なのになぜ?」と思ったが、うちもエースの先輩とバカボンのパパも出席している。よく見るとバカボンの親子のように見えてきた。
上司「オレさんにはユーザーのフォローを、先輩さんにはインフラを担当してもらいます。」
オレ「(クラウドサービスの契約なのにインフラ担当ってどうゆうこと?てかバカボンってインフラなの?)」
側の説明はとても分かりやすく、こちらがやる事もリストにしてくれていて準備は万全だった。しかし、肝心のユーザー側がグダグダで質問の内容も「そこから説明しないとダメなの?」とか、「それくらいそっちで考えろよ!」というような内容ばかりだった。オレもいくつか確認したいことはあったが、マルウェアが潜伏している状況で社内の誰かと接続するのはリスクしかないため沈黙を押し切り会議が終了した。
上司「各自のパソコンにSaaSのショートカットを作成するので、必要な方は先輩さんに言ってください。」
インフラ担当とは「情報システムを稼働させる基盤となる機材を運用・管理する者」である。デスクトップにショートカットを作ってあげるのだって立派なインフラの仕事だ。そうやって自分に言い聞かせながらバカボン親子の方を見ると後ろの窓に沈んでいく太陽が見えた。まるで陽が東に沈んでいくようだった。
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