【ネタ】軽視庁警備局爆破会社員対策課

 時刻は朝の8時53分。とある企業の社員に扮したオレはデスクに向かってキーボードをたたきながら、間もなく出社してくるある社員を待ち構えていた。その社員は業務内容の一切がベールに包まれていて、底知れない低スキルを持った不気味なやつである。システムエンジニアとして類稀な低スキルを武器に、分からないことは無視するか他人に押し付けることで今の地位を確立してきた。こいつは地雷式の爆弾を好んで使うタイプで、自分の担当している業務や知識を徹底的に隠蔽し、他の社員が対応を余儀なくされて迷い込んだところを待ち構えて吹っ飛ばすのがこいつの手口だ。この被疑者が出社する時刻が近づくにつれて捜査員の緊張感も高まっていく。すると、1人の男がフロアに入ってきて隣の島に座った。同時に捜査員が周りを囲み、オレが男に声をかける。

オレ「老兵だな?お前に逮捕状が出ている。」
老兵「・・・?」
オレ「自分がしたこと、分かってるよな?」
老兵「何のことだ?」
オレ「担当業務の引き継ぎもしなければ、お前が握っている情報も誰にも開示しないようだな?」
老兵「それがどうした?」
オレ「・・・。」
老兵「・・・。」

 老兵は不敵な笑みを浮かべて口を堅く閉ざしている。こいつは用意周到で警戒心も強く、情報はすべて紙もしくはフロッピーディスク並みの頭の中にしまいこんでいる。あとは取調室で時間をかけて引き継ぎをやっていくしかないと決意し、最後にどうしても気になっていたことを聞いた。

オレ「お前、ADの管理くらいできるんだよな?」
老兵「できない。」
オレ「まさか、プリンタのプロパティの設定くらいは知っているよな?」
老兵「知らない。」
オレ「もしかして、コントロールパネルの場所が分からないなんてことはないだろ?」
老兵「分からない。」
オレ「!!!!!」

 なんてやつだ。こいつの底知れない知識は底抜けだったのだ。システムエンジニアとかの前にまずはパソコン教室にぶち込むべきか思案したが、そもそも底が抜けているから新しい知識や技術を習得することは不可能だろう。このまま引き継ぎの話を聞き出せたとしても、おそらく大した情報を持っているとは思えなかったオレは引き継ぎを諦めることにした。それにしてもこんなやつが社内SEとして何年も潜伏していたとは・・・。この企業の闇の深さは計り知れない。

 署に戻ると新人がデスクで書類整理をしていた。オレと新人は普段は一般企業の会社員として働いているがそれは表の顔であり、裏の顔は創設して間もない軽視庁の軽察官である。近年、ストレス社会が抱える問題は多種多様になり、いつ誰がストレス性の加害者もしくは被害者となってもおかしくない社会となり、至る所で様々な問題が発生していた。会社員の見えないストレスは膨らみ続け、国も放置できない状況になってようやく打ち出された政策が軽視庁の創設だ。軽視庁はストレス性加害の軽視を全国民に広めることでストレスを排除・緩和し、会社員とその家族の精神的安全を守ることを責務としている。言ってみれば「ストレスを与えてくるやつなんて気にするな」というだけのことだ。その中でもオレたちは最も秘密に包まれた警備局爆破会社員対策課に配属された。通称「バカ対」だ。爆破テロリストのような信条や信念を持った集団とは違い、今では普通の会社員が故意もしくは無意識に周りを爆破する事件が頻繁に発生していた。そういった爆破会社員(バカ)から一般の会社員を守るため、オレたちバカ対は危険な企業に潜伏して日々死と隣り合わせの職場で任務にあたっている。オレも今朝の報告書をまとめようとすると突然館内放送が流れた。

放送「全署員に告ぐ。情報システム部で連続爆破事件が発生。犯人は派遣社員1人を拘束して現在も爆破を続けている模様。署員は速やかに急行せよ。」
オレ「新人、行くぞ!」
新人「はい!」

 オレと新人は現場へ急行した。到着したフロアでは2人の男が言い争っていた。

派遣「このシステムももっと皆さんに有効活用していただきたいですよね~。」
先輩「そんなことしたら管理しきれないじゃないですか?」
派遣「あ、いやでも、新人さんとか若い人がカスタマイズできるようになれば―。」
先輩「そんなことやって責任取れるんですか?」
派遣「え?いや、その・・・。」
先輩「自分で管理できるんだったらやってもいいと思いますが管理できるんですか?」

 こいつは当局が以前からマークしていた厄介な被疑者だ。迂闊に話しかけた人を標的に手榴弾を投げまくる連続爆弾投下魔で、最近では犯行がエスカレートしてきて、関係のない会話をしている人にまで爆弾を放り込むという被害報告もあがってきている。

派遣「すみません。でも管理者はシステム側ですよね?」
先輩「それはオレにはわかりません。」

 自分から管理云々と口を挟んでおきながら、大事なところは白を切るところは流石でしかない。こいつの厄介なところは、相手が聞きたいことに関係なく爆弾を放り込んでくるものだから会話にならないところだ。今回のように「こうなればいいな~」と言っただけで管理や責任の話になるから被害者からしたらたまったものではない。業を煮やして新人が飛び出す。

新人「手を挙げろ!ゆっくりとその口を塞げ!」
先輩「こいつは派遣だから何も考えていないんだよ。」
新人「黙れ!!」
先輩「こっちの管理を増やさないようにしないと―。」

 新人が仕掛けるがこいつはバカ(爆破会社員)だから話がかみ合わない。老兵はWindows95がモデルとなっていて処理能力も容量も低かったが、こいつは老兵の上位互換モデルでスペックと情報が少しだけ新しい分、話のくどさや論点をずらす性能が少しアップしていた。そもそもバグってるから性能が上がった分余計に面倒臭い。

新人「派遣に責任取れるわけねえだろ!」

 説得しても無駄だと判断した新人が正面から突っ込んで制圧した。新人は配属されて間もないが、既にバカ対でトップクラスの検挙率を誇っている。相手が誰であろうと怯まずに突っ込んでいくそのスタイルから「バカ対の狂犬」と呼ばれ、暴対からも声がかかるほどの武闘派として一目置かれる存在となっていた。

新人「管理責任放棄および無差別説教の罪で現行犯逮捕する。」

 こいつは自分が管理・責任のある立場でありながらその権限を放棄し、あろうことか派遣やパートの社員に管理・責任を押し付けるという犯行を繰り返していた。更には関係のない会話にまで入っていって無差別に説教を始めるという常軌を逸した犯行も行っていたり、質問サイトの回答で「まずは入門書から読んだ方がいいのでは?」とか、「それはあなたの主観ですよね?」とか投下していたのもこいつだった。こいつは老兵を模倣したかのような手口であったことと、普段のウザい発言やスキルの低さなど、老兵との共通点が多かったため早い段階から被疑者として浮上していた。先輩を車両に乗せると携帯が鳴った。

オレ「はい。オレです。」
係長「黒幕が動いたという情報が密告者が証言してきた。対策本部が設置されるから至急戻ってこい。」
オレ「了解しました。」

 バカ対策本部に到着するとすぐに対策会議が始まった。密告者の証言をもとに黒幕の悪事が次々と判明していく。黒幕は丸投げ式の旧型ミサイルを愛用していて、密告者もターゲットにされたが隙を見て命からがら逃げてきたとのこだった。証言の内容は、普通であればユーザーとベンダーの間に入って社内SEがシステム導入を進めていくのだが、こいつは密告者に丸投げ砲を炸裂してユーザー業務からソフトウェア開発までをひとりでやらせていたのだ。その間、自分は派遣やパートでもできる仕事をやってアリバイ工作し、システムが導入されたらその手柄だけを横取りしていた。

オレ「こいつは酷いな。」
新人「こんなバカ居るんですね。」
オレ「そうだな。付き合うだけ無駄だからさっさと逮捕してこんなブログ終わらせよう。」
新人「り。」

 黒幕の帰りをフロアで待ち、バカそうな顔をして帰ってきた黒幕を逮捕した。自分が何をしたのかも分かっていないのか、バカが豆鉄砲で撃たれたような顔をしていて呆れている捜査官達の後ろでは、多くの社員が黒幕逮捕の瞬間に歓喜して拍手喝采が起きていた。

オレ「本当に嫌われてるんだな。こいつ。」

 黒幕の逮捕で対策本部は解散となったが、これからもこいつらが再犯する度に戦っていかなければならない。オレたちバカ対の戦いはつづくのであった。

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